第1章 1章
時が経つにつれて雨は激しくなっていく。
あと少しという所なのに雨はザーザー降りになり、足元が泥濘む。
「はぁ…着いたらジャージに着替えなきゃな。」
室ちんがため息をつきながらそう言った。
生憎 貸してもらった折り畳みは自分よりちょっと小さいようで肩が徐々に濡れていくのを感じた。
肩から伝わる冷たさに不愉快になる。
これから朝練だがこの雨のせいで正直気が乗らなかった。
さっさと終わらせて帰りたい。
…そんな事を考えていると細い路地裏に何やら人影を見かける。
何となく気になって視線をそっちに向ける。
そこには白衣を着た少し幼い顔の女の子が顔を歪ませてしゃがんでいた。
どしゃ降りの雨の中傘もささずに何を見つめているのだろう。
視線を下げるとそこにはビニール傘が置いてある。
あの傘はあの女の子のものだろうか。
更に傘の下には猫がぐったりと横たわっている。
あの子は猫を助けようとしているのだろうか…
「…敦?」
室ちんに呼ばれる。
けど、それよりも─
あの子から目が離せなかった。
…なんだか凄く困ってそうだし。
「ごめん室ちん、先行ってて。」
「敦!? 待て!どこ行くんだ…!」
俺は室ちんの言葉を無視して足を別方向へと向けた。