乙女ゲームの一生徒に転生した私は穏やかに暮らしたい
第3章 きっかけは教科書
少しでも上を向くと、ふんわりとした髪質の桜色の頭が私の視界に入る。
眠そうにしている事が多いからあまり実感する事は少ないのだが、彼は切れ長の目をしており、そんな彼の紫色の瞳が私を見つめているため落ち着かない。私の推しは顔が良いから……。
「あの、これ、音楽室の机の中にあったので……」
私は手にしていた音楽の教科書を胸の前に掲げる。敬人さんの視線が教科書に移った。
「ああ、そう言えばないなって思ってたんだよね〜」
何が面白いのか、敬人さんはケラケラと笑う。
「ありがとう。君が届けに来てくれたお陰で、一に泣きつかなくて済んだよ」
敬人さんが私から教科書を受け取る。
手が触れ合ったわけではない。ないのだけれど……。
彼の手が近くに来た、それだけで胸が高鳴ってしまい、ああ、自分は重症かもな、なんてぼんやりと考える。
「お前、一緒に探してとでも言うつもりやったんか……?」
教室の中から、呆れたような声が聞こえてきた。