乙女ゲームの一生徒に転生した私は穏やかに暮らしたい
第3章 きっかけは教科書
音楽室は四階で、目的地は三階。
階段での移動は少しで済んだが、一刻も早く届けたいという気持ちが強く、小走りで移動するうちに息が上がっていた。
二年三組に到着する。二年生の教室は、階が違うだけで一年生の教室とデザインなどは同じなのに、どこか流れる空気が違う気がした。
私は廊下の隅っこで息を整えてから、扉の前に移動し、小さめの声で、
「あ、あの……」
と教室の中に向かって声を出した。
控えめな声にも関わらず、一番扉に近い席に座っている先輩が、私に反応してくれた。
「どうしたん?」
「あ、えっと、旭先輩って今いますか?」
私の言葉を聞いた先輩は、一度後ろを向き確認したあと、
「んー……おるよ、ちょい待っとき」
にこやかに笑い、席を立った。
彼は教室の中心の方まで移動し、そこの席に座っている生徒──敬人さんだ──に何やら話しかけていた。
先輩と話していた敬人さんは、視線を先輩から扉の方に移す。私は敬人さんとばっちり目が合ってしまい、それだけで私の頬が熱くなった。
椅子を引き立ち上がった敬人さんは、こちらへと歩いてくる。
よくよく考えたら、敬人さんを呼んでもらうんじゃなくて、さっきの先輩に教科書を渡してもらえば良かったかも! なんて考えている間に、敬人さんは私の目の前に来ていて──。
「君一年生? 俺に何か用〜?」
きょとんと首を傾げ、敬人さんはそう言った。