第13章 13
『人間だってそんな人ばかりじゃない。確かに都合のいい奴が僕に助けを請うことだってあるけど、そんな中でカヲルちゃんみたいな好意的な人がいる。僅かなことを糧に生きていくことは他のみんなも同じじゃないか』
「日も落ちてきたし、そろそろ帰るとするか」
「そうですね、買い物も済ませなきゃ…」
地面と自分の下駄が擦れてカラコロと鳴る音を聞きながら、ふと考えていた。
もし自分が人間を嫌いになったとして、カヲルちゃんが取り返しのつかないような極悪人になったとしたら…自分はカヲルちゃんを殺すなんてことできるのか、と
『……無理だなぁ。
だってカヲルちゃんのこと好きだもん』
「ただいま」
家に帰るとカヲルは本を読んでいた。集中しているらしく気が付いていない
「カヲルちゃん」
頭を撫でるとこちらを振り向く。パッと顔を輝かせて抱き着いてきた
「わ!カヲルちゃん!?」
もしかして帰るの遅かったから寂しかったのかなと思っていたらカヲルに顔を埋められた胸元から微かな振動を感じた。まさかなと思いつつ顔を下げるとカヲルは満面の笑みで見つめる
「………ア…を……おあえり」
言った…喋った…
初めて聞いたカヲルの声はかすれていて、それでいて愛があった。
「あ、ああ…」
驚きと感動の余り自分も喃語のような言葉が出てしまった。そして泣きながら力の限り抱き締めた
この気持ちは小さな子供を育てる母親に近いものだった。安心感よりも愛情が体からにじみ出ているのがわかる
カヲルは鬼太郎が喜んでいることがわかると鬼太郎の肩の上で何度も何度も
おあえり、おあえりと嬉しそうに言い続けた
ごめんなさいカヲルちゃんのお母さん。貴方が一番にもらうべき感動を僕が取ってしまいました。けど安心して下さい。貴方が生前愛したカヲルちゃんは元気です。真面目で、努力家で…
カヲルちゃんの心はまだ完全に曇り切っていない。どうか自分が殺してしまったなんて思わないでください。カヲルちゃんはこんなにも愛されているんですから
「うん、ただいまカヲルちゃん!」
彼女の幸せは自分の幸せ。この子がいる間は当分人間を嫌いになれない鬼太郎だった