第10章 10
私、貴方の温もりが好きです
最期に撫でられたり抱き締められたことはもう遠い昔の話ですから。落ち着くんです、このまま退化してしまうのではないかって思うぐらいに。私のことをここまで労わってくれた人に会ったのは久しぶりです
あんな泣きたくなるくらい優しい視線を向けてくれたのは貴方が初めてです。
もしかしたら私も心のどこかでもう何処へにも行きたくないって思っていたのかもしれません。
すみません、厚かましいお願いなんですが
もう一度、してくれませんか?
うん
君の名前は?
今なら教えてもらえると思った。少女は地面に文字を書く
ひらがなでカヲルと
貴方の名前は?
あ、ごめん。言ってなかったよね
鬼太郎
き?
き
そして
鬼太郎は怖がらせないようにそっと包み込むように抱き締める。死んで実体はないはずなのに触れ合える不思議と髪の匂いはしないのに肌の匂いはする不思議。ポテトスープみたいな赤ちゃんに似た香り。思わず頬ずりさせるともちもちしている。
ゆっくりと手を頭から背中まで滑らせ、それを繰り返す。髪の毛を手で撫でたときの気持ちよさと
寸止めした時に感じる規則正しく動く背中。ここに肺があるんだって気づかされる
こんなにも生を感じたのは初めてだ
「カヲルちゃん…」
抱きつきながら呟く
ああ、彼が自分の名前を呼んでいる。
声は聞こえないはずなのに髪や首元にかかる吐息からちゃんと分かる、言っている。全身で鬼太郎をかんじて脳内は自分のなまえでいっぱいになる
私の名前をこんなにも感じることができる日がくるなんて…
カヲルと鬼太郎の体は何故か体温が上昇する感覚に襲われる。
暑い…特に首回りが
互いにこの気持ちに名前を付けずにその時を過ごす