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何も知らない僕たちは

第9章 9


こんな文章が約二枚に渡って続いていた。

「耳が…聞こえない………」

「しかももう既に死んでおったとは驚きじゃな…」

確かに耳にしたことはあったが自分が実際に障害のある人と会ったことはなかった。なんて生活を送っていたのだ。自分のことをいたわれない素振りは自分が見たときはもう既に癖になっていた。自虐的な文章からもし本当に喋れていたら自分のことを何と声に出して言うのだろうと怖くなった

『これは決して他人に許しを媚びているのではない。自身がどれ程ちっぽけな存在かを自分で傷をつけているんだ』

「それにしても奇麗な字じゃのぉ。とても耳が聞こえないとは思えん」

「きっと死に物狂いで練習したんでしょうね…………」




『馬鹿なのは僕のほうだ…!なんで今まで気が付かなかったんだ!その間もずっと彼女は一人ぼっちだったはず…
目の前にいるのに、傍にいるのに、自分が孤独になるなんて

どれだけ辛いだろう

悲しいだろう

寂しいだろう
彼女の過去はどうにもできない。でも…………

何が支えてあげたいだ
僕は正真正銘、何もしてやれなかったじゃないか……!!!』




グシャ


「き、鬼太郎!どこへ行くんじゃ!」

「あの子に会いに。きっと父さんも来た方がいいと思います」

「これからのことは…決まっているのか?」

「そんなことは今はどうでもいい。僕は彼女と話したい」

珍しく怒りに満ちている息子を見て、これは止めようがないし、止める必要もないと察知した目玉おやじは黙って鬼太郎の頭に乗った

これは決して彼女に向けられた感情じゃない














時間はかからずに見つけた。しゃがみ込んでじっと何かを見つけていた。
声をかけようとするが聞こえないことを思い出して、一度その口を紡ぐ。そして、彼女をびくっくりさせないようにゆっくりと手を取った
少女は感触に反応し、振り向いてくれた

ああ、これだ。となんとも言えない感情が一瞬胸をよぎった

「えーと…その…」

なんと伝えたらよいのか。言葉も言語も。
丁度近くに落ちていた木の棒を拾って地面に言葉をぞりぞりと書く



何見てたの?

蟻の巣穴です
地球にとても塵のような影響しか与えられないのに、毎日せっせこ働いているの
まるで私みたい


「…」

あの、ごめんね

何が?

君のこともっと早く気が付いていれば…
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