第8章 8
注:多少の痛々しい表現があります。大丈夫ならばスクロール↓
生きるためには何でもしました。私は知らなくてはいけないことが沢山あったので兎に角本を読み漁り、学習しました。学校での授業ですら時間が惜しかったのです。
家計のつけ方、ご飯の作り方、仕事のありつき方、文字の書き方、「外」との通信手段、口読術もこの内に身に着けました
振り返れば常に何かを背負い、何かに追われる日々で自分をいたわれる時間なんてありませんでしたし、居場所もありませんでした。自分も他人も私を何処か下に見ていました。
けど、こんな私でも唯一友達になってくれたのが近所の猫でした。当の本人は興味なさそうな顔をしていましたが、仮に私が喋れるようになったとしても、猫は私の言っていることは分からないだろうし、猫が私に話しかけてもきっと私は分からない、そんな関係が私には素敵だと思っていたので登下校の時、時間が許す限りで一緒にいました。
その猫が私の命を取った要因だって言ったら貴方はどんな反応をするでしょうか。笑える話ですよね。
けどあの時の私はそう選択をしたことを確かに覚えています。あの猫が車に轢かれそうだったのを見て、どうせ朽ちるならずっと傍にいさせてくれたあの子の為に落としたいとその時強く思っていました。
後は体が勝手に動くもので、最後の記憶は「痛み」でした。
硬い鉄とアスファルトに引きずられ頭部の肉が裂け、ゴリゴリという音が頭の中に響いている時間。
私の中で命と共に何かが擦り減っていく時間。
気が付けばここにいました。私は死んだはずなのにどうしてここで生きているのか、死んでも耳が聞こえないままなのか全く分かりませんが地獄でもない天国でもない場所で貴方方に大切にされたのは紛れもない事実です。
私はこれからどうしていくのか、どこへ行けばいいのか分かりません。ですが、いつまでも亡者がここをうろついていたらご迷惑になりましょう。
私は随分と面倒をかけました。どうか苦でなければ私の処分は貴方が決めていただけると幸いです。
追伸
私はこの家の近くの森にいます。そう離れていないので、もし何かお話ししたいことがあれば探してください。