第7章 7
私はずっと隠していました。この森に来てつい最初に今まで私の身に何があったのか私は知っていました。ですが単純にお話しするのが怖かったのです。もし真実を知ったら私の居場所は無くなるのではないかと。
ですが貴方にここにいていいと言われてしまえば、もうお話しせざるを得なくなってしまいましたね。
それは時の定めという意味でもありますし、貴方に寄せる信頼という意味でもあります。
私は生まれつき、耳が聞こえません
みんなが普通に聞いている雑音、鳥たちの鳴き声、木々のざわめき、そして貴方たち目の前にいる相手の声すらも一度も聞いたことはありません。
そして私は確かにあそこで死んだはずなのです。
私はごく普通の家庭に生まれました。私が生まれて初めは両親とも障害があろうと二人で頑張って育てようと誓い合ったらしいです。
ですがうまくいきませんでした。お父さんという立場の人は私が小学生の時にいなくなりました。何故こうなってしまったのか子供の私にはわかりませんでした。その原因が私だということを後々知るのですが…
小学校に入学した時、もう二人の間はもうすでにピリピリしていたので世間体をはばかるため、支援学校ではなく普通の学校に通わされました。みんなきっといい子であるはずなのですが欠けている私にはここで生活するには苦痛でした。
皆から向けられる視線、いつか誰からか背後から突き飛ばされるかもしれない恐怖に怯えながら
その時は歩くだけでも誰かの助けが必要でしたが、話すことができない私には「一緒にいて」とすら伝えることもできず孤立に拍車がかかったのは確実でした。
母はもう既にやつれていました。勿論別れた父から養育費など送られませんでしたから生活はどんどん困窮していくばかり。
その時の母の口癖が
「貴方を産まなければ変わらなかった」でした。
私は母が耳が遠い私を懸命に世話をしてくれたことも父に突き放された悲しさと絶望も知っていましたので怒る気も悲しむ気もありませんでした。そうなってはいけないと思いました。
家は私が支えるしかないと思い、生活は仕事に明け暮れていて、内職や近所の畑の手伝いを”おこずかい”として貰ったり、時にはいわゆる違法の職場で働くこともありました。賃金は塵のようなものでしたが掴めるものは掴んでおかねばと必死でした