第5章 5
「あいよ、鯖とおまけで魚の目玉ね」
「いつもありがとうございます親父さん」
「いいってことよ、こっちも捨てるのに困ってたからな。
それにしてもいつも偉いねぇ。こんな小さい子どもが一人で買い物なんて。そろそろ小学生かい?」
「……え」
「おい鬼太郎!あの子がおらんぞ!」
後ろを向くとただそこは風が通り抜けるだけだった。まるでそれが当たり前だったかのように
「親父さん!僕女の子を連れていたはずなんですけど見ていませんか!?」
「さ、さあ?俺の記憶が正しければたぶんここに来た時はもう見ていないぞ?」
町中を駆け巡った。こんな時に初めて沢山の人と話したけれどお目当てのものはなかった。しまいには一反木綿まで呼び出して探す始末
『もしかして、元の家に帰ったのかも…って思いたいけど可能性は薄そうだ。
そろそろ暮れてくる…!早く見つけないと妖怪達が勘違いして食べてしまうかもしれない!』
「鬼太郎しゃーん!見つけたばーい!」
連れてこられたのはゲゲゲの森。だが自宅よりはずっと遠い雑木林だった
上空から茂みにうずくまって隠れているのが見えた
「いた…」
「何を馬鹿なことをやってるんだ!君は人間なんだぞ!?本来であればここにいてはいけない!もし僕達が来るのがもっと遅かったら君の命はなかったかもしれないのに!!」
珍しく荒ぶった声で怒鳴ってしまった。父親に咎められ一旦口を紡ぐ。よほど怖かったのか彼女は声を上げないまま朝露にような涙を目からポロポロ出してしまう
言い過ぎた。ここまで感情が高ぶったのは久しぶりだ
「…ごめん、ごめんね。君が心配だったんだ。町中探していたんだよ」
抱き締めると少女の可愛らしい小さな顎が自分の肩にちょんと乗る。
この子はよく泣く子だ
「それにしてもどうしてここに…人間界に着くまでは一緒にいたはずなのに…」
「…」
「鬼太郎しゃん、もしかして本当は行きたくなかったんじゃなかね?」
「そっか………そんな顔してたもんね。ごめんね。僕、君を助けてあげたい、支えてあげたい余りに君のことが見えなくなってた。君の意見を尊重しなかった。
ねえ、もし君が元の生活に帰りなくないのなら…
ずっとここにいてよ。
他の妖怪達みんなはどんな反応するか分からないけど、それが君の幸せの形ならそれでもいいかなって思ったんだ」
素直に笑った顔が素敵だから
