第21章 二つ三つ
テンゾウさんはクルミのパンにかぶりつき、しっかりと噛み締めた。私はドライフルーツ入りのパンを一口食べる。公園には、家族連れが木陰でお弁当を広げていたり、年配のご夫婦が仲良く散歩している姿がある。
周りを見渡しながら、のんびりと一口二口食べて隣を見ると、彼は瞬く間に一つ目のパンを食べ切ってしまった。残る一つを渡すとそれもぺろりと平らげる。
「このパン、すごく美味しいですね。気に入りました」
「良かった!紹介した甲斐がありますよ」
「また、今度買いに行ってみようかな…」
ぽつりとそう呟くので、私は驚いて彼を見た。
「そんなに?テンゾウさん、常連さんになりそう」
「はは、そうなりそうですね」
手持ち無沙汰にしているテンゾウさんに、私は残っているパンを勧めた。
「良かったら、これもどうぞ」
「いや、そんな。貴女の分がなくなってしまうでしょう?」
「でも、お腹すいてるんじゃないですか?」
「そうですね。午前中体を動かしていたからかな」
「じゃあ…」
チーズ入りのパンの袋を差し出したが、彼はやんわりと手で制した。
「ありがとう。でも、これくらいで抑えておかないと、動きが鈍くなるかもしれない。そうなれば、厳しい先輩に注意されますし」
「それって、カカシさんのことですか?」
「うん。まあ…。と言っても、任務中に限ってのことですよ。本来は優しい先輩なんで」
「そうなんですか。ちょっとカカシさんって、不思議な人だなぁと思ってましたけど」
私はパンを飲み込んで、温かいお茶を飲んだ。
カカシさんと言えば、優しそうに見えたり、棘があったり、テンゾウさんを可笑しそうに揶揄っていたり。私の印象はまだ定まってはいない。
それでもその話しぶりから、彼がカカシさんをとても信頼していることが分かった。
「まあ、僕が褒めたところで信用してくれませんけど」
「何故ですか?」
「僕が何かと意見するからかもしれませんね。褒め言葉を口にしても、何故か疑り深く睨まれるんです」
くっと、テンゾウさんは思い出したように笑う。
「すごい忍なのに、憎めない面もあって…本当にいい人なんですよ」
そう言って、彼は前方に顔を向けてお茶を一口飲んだ。目を細めている横顔にふと見惚れる。緩やかな風が、彼の栗色の髪を軽く揺らした。
テンゾウさんが心から信頼している人。
これが、三つ目。