第41章 これからも — 後編 —
花束を手に、今度は墓地へと場所を移した。
訪れる度、ここでは誰かとすれ違う。やはりまだまだ戦場で命を落とす人がいるのだろう。よく見かける老婦人や、初めて見る忍び装束の若い人もいる。
目的の墓石の前に、リンドウの花束をそっと置いた。隣にはテンゾウさんがいる。家族ではない誰かと、一緒にここに来るのは初めてだった。母は、敢えて立ち寄らないようにしているのか、ごく稀にしか来ないのだ。
目を閉じてまた祈りを捧げる。
父はこの報告を喜んでくれるだろうか。
ふと隣のテンゾウさんを見上げると、彼は目を伏せてじっと考え込んでいた。私は彼の服の袖をそっとつまんだ。
「テンゾウさん」
「ああ。何?」
「こんなところまで付き合ってくれて、ありがとう」
「そんなこと、気にしなくていいよ」
テンゾウさんが顔を綻ばせる。
「じゃあ、そろそろ行こうか。今日はどうする?」
「そうだなぁ……。パン屋さんで好きなものを買って、外で食べませんか?いい日和ですし」
「いいね。そうしようか」
「それから、木ノ葉茶通りに戻って買い出しをして……」
「うん。それで?」
「夕食を作るので、一緒にどうですか?」
歩き出したテンゾウさんの服の袖を、私はまたそっと掴む。
「もちろん。喜んでご相伴にあずかるよ」
テンゾウさんが振り返ってそう言うので、気持ちが弾んだ。私は思い切って、彼の腕に自分の腕を絡ませた。頬をくっつけて上目遣いに見ると、彼が驚いて目を見開く。頬がほんのり赤くなっていた。
「ふふ」
「どうしたの…いつもは君の方が恥ずかしがるのに」
「だって、一日一緒にいられるのって、久しぶりじゃないですか」
「確かに、そうかもしれないな」
「独り占め出来るなぁ、って思ったら…」
体をすり寄せると、テンゾウさんが「しょうがないなぁ」と笑い交じりに言った。二人でゆっくりと歩き出す。
進む先に目をやると、空の色は明るい。
明日晴れたら…。
いえ、たとえ雨でも曇りでも。
貴方とどんな約束を交わそうか。
それがこれからもずっと続くことを、私はそっと願った。
***
終わり