第21章 二つ三つ
丸いパンが並ぶ棚に寄り、へぇ、なんて呟きながら覗き込んでいる彼に声を掛けた。
「何か、買いましょうか。ここでパンを買って、外で食べるのも気持ちがいいかなって思ってたんです」
「そう。それは名案だね」
「ここのパン、見た目は地味ですけど美味しいんですよ」
パンを置く籠(かご)と、トングを手に取る。
「男の人だと、ちょっと物足りないかもしれないですけど…」
「そんなこと。僕はクルミとかナッツ類が好きなんで」
これにしようかな、とテンゾウさんはクルミの入った丸いパンを指差した。筋張った手の甲に目が行く。二つ籠に載せて、私はチーズを練りこんであるパンを選んだ。ドライフルーツ入りのパンも買う。
まだ温かいパンの入った袋を持って、私とテンゾウさんは、里の景色が一望出来る公園へと向かった。
(クルミ…ナッツ類かぁ)
彼の好きなものを一つ知った。
*
ときどきそよ風が吹く。
私とテンゾウさんは、会話を交わしながらゆっくりと歩いた。
購入したパンについてや、お気に入りのノートの使い道など。
彼は主に記録帳として使っているらしい。
更に聞くと、彼は建築に関する勉強をしていて、目に止まった情報を書き留めていると言った。神社や寺院の造りについて話すとき、彼はやけに活き活きしていて、ちょっと可愛いなと思う。
これが二つ目。
心の中でこっそりと数える、テンゾウさんの新たな側面。
一つ知る度にふんわりと気持ちは膨らむ。
*
しばらく歩いて高台へと上ると、上がりきった先に、小さな公園があった。
背後には火影岩が見え、前に目を向ければ、緑豊かな木ノ葉隠れの里が一望出来る場所だ。
欅(けやき)の木の傍に、木製のベンチがある。
「ここで食べましょうか」
「ええ。いい場所ですね、緑も多くて」
見渡すと公園には、様々な木々が生えている。薄曇りだった空には、ところどころ青空がのぞいていた。その光が梢(こずえ)に当たり、明るさを増している。
並んで腰掛けて、パンの袋を開く。テンゾウさんが温かいお茶を私の方へ差し出した。途中、私の分も買ってくれたのだ。
カップを持つ手に自然と目が行く。男性らしい節の目立つ大きな手。カップを受け取ると、指の先が軽く触れた。
「…ありがとうございます」
「いえいえ」