第21章 二つ三つ
私は、木ノ葉茶通りに向かった。表通りを進んだ先に文具店はある。
数人道行く人とすれ違う。
店先に着くと、既にテンゾウさんが待っていた。
「すみません!お待たせしてしまったみたいで」
小走りで駆け寄ると、彼はこちらを見てふっと笑った。
「いえ。僕もほんの少し前に来たところですから。…こんにちは、ナズナさん」
「こんにちは。…テンゾウさん」
テンゾウさんは、七分袖の着物を着ていた。その下に黒のアンダーシャツを合わせている。裾も腰辺りまでのものに、黒いパンツを履いている。以前見た服装より、かなり古風だった。
二、三回とは言え、目にする服は彼の雰囲気に合っていたから、またもやじっと見てしまった。
「あの、何か?」
「いや、その。今日の服装が意外で…」
「ああ、そうかな?…そう言えば、ナズナさんの服装と少し似てますね。狙った訳ではないんですが」
ほら、と横に並ばれて微笑まれると、俯くしかなかった。
「あの…じゃあ、行きましょうか。こっちです」
気恥ずかしくなって、ぎこちない動きで先導する。それを気にもせずに、彼はさり気なく私の隣を同じ歩幅で歩く。
彼に聞きたいことはたくさんあったのに、その一つすら聞けずにいた。しばらくしてテンゾウさんが、ふと口を開いた。
「今日は晴天にならなくて残念でしたね」
「ええ。あれだけ言っておいて…もう、がっかり」
「はは。僕もです。いつの間にか、晴れたらいいと、どこか期待してましたし」
そう告げられてハッと顔を見上げると、彼は朗らかに笑っていた。
昨日の話だ。
同じ気持ちでいてくれたと思うと、何だか嬉しい。
*
「ここです」
案内した先はパン屋だった。
小さな店で、食パンや木の実を混ぜたパンなど、シンプルなものばかり置いている。私はドライフルーツを混ぜ込んだパンが好きで、よくここに買いに来ていた。
店に入ると、焼き立てのパンの優しい香りに包まれた。壁に備え付けられた棚に様々なパンが並んでいる。
店に入ってきたテンゾウさんは、珍しいものを見るようにパンの棚を眺めていた。男性だと、もっとしっかりとお腹に溜まるもののが良かったかと思っていたけれど、その表情は楽しげだった。