第19章 再び
ぼんやりとしていると、彼女は好奇心たっぷりの瞳で、私の顔を覗き込んでいた。
「先生は~?」
「え、私?私は…」
浮かぶのはやはり、あの人の顔。
栗色の髪、穏やかな声。ちょっと茶目っ気があって…でも彼は。
大袈裟に思案顔を作り、ぽつりと呟いた。
「私も内緒、かなぁ」
「えー、なあんだ。残念」
山中さんは、あからさまにつまらなそうな顔をした。でもすぐに表情を変えて、悪戯っぽく微笑む。
「でも、好きな人はいるんですね!また教えてもらおうっと」
「ええ?!もう…しっかりしてるのね」
「ええ。私、くノ一ですから」
目を閉じて澄まし顔で彼女がそう言うので、私は笑った。
「ありがとうございました~」
彼女の明るい声に笑顔で応え、私はお店を後にした。
*
店の外は薄暗闇に包まれて、商店街には明かりが次々と灯り始めている。
私は手にしたバラの花に顔を寄せた。良い香りと共に、明るい声が思い出される。
やっぱり教え子から元気をもらうことは多くて、イルカ先生が生徒の悪戯や、彼らの忍術の出来不出来に悩みながらも、いつも楽しそうなのが分かる気がした。
今日の夕飯は何にしようなどと考えながら、連なる店を眺めていると、明かりの灯った蕎麦屋から暖簾をくぐって人が出てきた。
背の高い男性が二名。その一人はやけに目を引いた。
(あ、あれって、カカシさん?)
ひょろりと高い背に、銀色の髪。薄暗闇の中でもその髪色は目立って見えた。少し猫背なのも特徴的だ。
何の気なしにその背を眺めていると、視線に気づいたのか彼は振り返った。
「あれ?ナズナさん、今帰りですか?」
「こんばんは。やっぱりカカシさんでしたか」
立ち止まった彼らに歩み寄る。
ふと隣を見ると、知っている顔があった。