第19章 再び
先程寄ったばかりなのに、私はまた山中花店に足を踏み入れた。店頭にはもう明かりが灯っている。
「いらっしゃいませ~」
綺麗な金髪がさらりと揺れる。振り向いた顔が明るく輝いた。ここはアカデミー卒業生、山中いのちゃんの実家だ。
「あ、ナズナ先生!」
「山中さんじゃない。店番なの?」
「はい。さっき父さんと修行から帰ったんです。先生は?」
同僚のことを思い出して、自分のために花を一輪買おうと思った。隙間風が吹いた心に、彼女のような気持ちの余裕が欲しい。ふとそんな風に感じたのだ。
並ぶ花を見て、意識的に笑顔を作る。
殺風景な机に花を添えようかなぁ、なんてね。そう呟いてみた。
「山中さんのお勧めは何?」
隣に寄り添って、花を見ていた彼女が嬉しそうに微笑んだ。
「私は~、やっぱりバラですね!」
これ!と、彼女は少し開き始めた赤いバラ一輪を差し出した。赤いバラからふわりと上品な香りがする。
「じゃあ、山中さんのお勧めをもらおうかな」
「ありがとうごさいまーす」
修行の後のはずなのに、まだまだ元気一杯の声に自然と笑顔になる。
「一輪なのに、わざわざごめんね」
丁寧に花を包んでくれる彼女にお礼を言った。どういたしまして、と大人びた返答をして、彼女はカウンターの下から薄く柔らかな包装紙を取り出した。
「山中さん、下忍の任務はどう?」
「順調ですよ。まあ、うちって班の構成も予想通りって言うか…親同士も親しくって」
「そっか。ええと、奈良君と秋道君か」
「そうです。猪鹿蝶っていうコンビネーションが大事なんですって。私は~、ホントは他の人と組みたかったんですけどぉ」
はい、と手際よく包んだバラを彼女は私に差し出した。受け取って尋ねる。
「他の人って?」
「もう!先生聞かないでくださいよ~。内緒!」
彼女はきゃー、と口元に両手を添えて体を小さくした。
「そんなの、好きな人に決まってるじゃないですかぁ」
「あ、そうか。そうだね」
そう言えば、山中さんは共同授業のとき、サスケ君に話しかける女生徒の集団に交じっていたっけ。彼女はサスケ君に好意を寄せているらしい。