第19章 再び
翌日、授業を終えた帰り道、山中花店に寄り、お供え用の切り花を買った。黄色の菊の花を数本。それを手に、里の外れに向かって歩き出す。
中心街を抜けた広場には、殉職した忍たちの為の慰霊碑がある。広々とした場所に人気はなくて、少し寂しく感じられた。
不意に吹き抜けた風に髪が煽られる。どこからか、木の葉が一枚飛んできて髪に当たった。
私は跪いて、慰霊碑の名を見つめた。刻まれた父の名を指で触れる。石碑に彫られた名前には、凸凹とした感触があった。数名の名前の上に、イルカ先生のご両親の名前もある。
こうして刻み込まれた名前を見ると、本当に父が亡くなったのだと思い知らされた。立ち上がり、顔を上げる。
見上げる空は、今日も美しい夕焼け。
(明日もいい天気になりそう)
明日晴れたら。
それは、父の口癖だった。
明日晴れたら、山へ行こうか。
明日晴れたら、川べりに行って釣りをして水遊びをしよう。
そうだ、体術の修行もしないとな。
お前は体力がないからなぁ。俺がしっかり鍛えてやる、なんて。
よく日に焼けた顔で笑いながら、そんなことを言っていた。
私は晴れだって、雨だって別に構わなかった。どんな天候だって、大切な人と過ごせるならいつだっていい日に思える。
でも、いつの間にかその口癖は自分にも移っていて、何か期待感が在るときは口に出していた。
明日晴れたら……。
私は、誰と何を約束しよう。
風の中、涙が一筋頬を流れ落ちた。それを手でぐいと拭い、私は墓地の方へ向かった。
*
名ばかりの墓石に花を供え、しばし祈る。ちらほらとお墓参りに訪れた人々とすれ違う。穏やかな表情の老婦人や、まだ若い忍の男性もいる。彼は沈痛な面持ちで、一つの墓石の前で佇んでいる。最近亡くなったのだろうか。
押し殺したような泣き声を聞きながら、私は墓地を後にした。