第3章 陽の当たる場所
イルカ先生を待って、一緒にアカデミーの建物を出ると、金色の髪の少年が転がるようにこちらに駆けてきた。空に目をやると、少し陽が傾きかけている。
「イルカ先生ぇ!遅いってばよ!」
トレードマークのゴーグルを片手でぐっと上げて、彼はイルカ先生を見上げている。服には所々に赤やら黄色のペンキが付いていた。
「ちゃんと、綺麗にしたんだろうな」
「おう!前よりかっこよくなったかも」
「そんな訳あるか。まあ、ちゃんとやったならよし!約束通りラーメンおごってやる」
「いぇーい。俺、とんこつ味噌チャーシューで!」
よだれを拭うような仕草で、彼は口の周りを腕でこする。その姿をイルカ先生は満足気に眺めていた。
一歩下がった位置で二人を眺めていた私に、ナルト君が気が付いた。
「あ、あれ?…えっと、ナズナ先生?」
目を瞬かせて彼は言った。
「ナルト君。久しぶり。この間の共同授業以来かな?」
「うん。なんで、ナズナ先生がイルカ先生と一緒にいんの?」
「さっきまで、イルカ先生に授業のことで相談に乗ってもらってたの。ちょうどそれが終わってね。帰る時間が一緒になったから」
「フーン。そっか」
ナルト君は、両腕を頭の後ろに回した。
「でも、ナルト君。私のこと、覚えてくれてたんだね。たまにしか会わないのに、嬉しいなぁ」
ナルト君や他の男の子たちとは、共同授業のときやその前後しか会わない。顔を合わすことが少ない分、嬉しさも倍増する。自然と顔は笑ってしまう。
「だって、ナズナ先生はさ、サクラちゃんのいるクラスの担当だしぃ…」
彼の言う、「サクラちゃん」というのは、くノ一クラスの春野サクラのことだ。桜色の髪をした、勉強の良く出来る子で、ナルト君はどうも彼女のことが気になるようだ。
もじもじと身をよじりながら、ナルト君は照れている。その様子を可愛いなぁと思い、眺める。
「それに、グフフ。先生は俺のこと褒めてくれたから…」
「えっと、それって…」
上目遣いで彼はニヤニヤと笑っている。その表情で、以前あったある一件について思い出した。
「ああ!あのときの!」
「そうそう!へへ」
「そっかぁ。ふふふ」
二人で目を合わせて笑い合う。その奇妙な意思疎通の内容は、隣にいるイルカ先生にはピンときていない。それは、前回の共同授業の後のことだったからだ。