第2章 アカデミー
「ふふ、彼と過ごすのは大変そうですね」
「はは。まぁでも、世話がかかる程可愛いといいますか、弟のようでしてね」
彼は椅子に座り直しながら、こちらを振り向いた。眉尻を下げて嬉しそうに笑う。
「あ、それはそうと、それはこれからの授業計画ですか?」
「ええ。今年は実技も増えましたので、ちょっと難しくて…」
開いたままのノートに目を落とし、私は呟いた。真新しいノートは、先日文具店で買い求めた薄茶色の表紙のものだ。厚めのノートの一ページ目には、簡単に生徒たちの得手不得手について記してある。
「そう言えば、ナズナ先生は、今年幻術について担当されるそうですね」
「はい。発動についての説明はいいのですが、やっぱり実技となると…どう教えたらいいものかと。解除方法中心と言っても、一度はかけることになりますよね。それが心配で。まだデリケートな年頃ですし」
「うーん、なるほど。それで悩んでおられたんですか。繊細な子だと強い幻術は、確かに避けた方がいいでしょうねぇ」
イルカ先生は自身の授業の資料を整えながら、話を聞いてくれている。
ぺらぺらと手元の資料をめくったり、幻術の仕組みが記された巻物を開いてみる。鉛筆の先でノートをつついた後、一つ溜息をついた。いい案は一向に出てきそうにない。
すると、イルカ先生が椅子を軋ませながら立ち上がった。
「少し休憩を取りませんか?俺がお茶を入れますから」
「え、あのお気遣いなく」
慌てて顔を上げると、彼が振り返って笑った。
「気にしないで下さい。俺もちょっと一休みしたかったんです。顔岩の掃除は結構な力仕事でしたからね」
イルカ先生は爽やかにそう言い残して、隣にある給湯室へと消えていった。