第10章 お見舞い
廊下を進み、二つ病室を通りすぎた辺りに共同の水場がある。花瓶を手に取り、花を活けていると近くを通った人の囁き声が聞こえてきた。どうも、女性の二人連れのようだ。
「ほら、知ってる?あの子、とうとう下忍になったそうよ」
「ああ、九尾の…」
(もしかして、ナルト君のこと?)
「九尾」と聞こえ、思わず耳をそばだてる。
「そうそう。うちの子もアカデミーに通っててね。噂を聞いたのよ」
「そうなの?でも、大丈夫なのかしら。そんな、あの子の中には九尾がまだいるのよ。いつ飛び出してくるか…」
「先生方は何を考えているのかしら。ちゃんと管理してくれないと困るわ」
人目をはばかるように小声で話しながら、その二人は通り過ぎて行った。
いやな感覚が押し寄せてくる。
切り花を手に、私は彼女たちの背をぼんやり見つめていた。
(九尾…)
先日見た夢の映像がよみがえってくる。色とりどりの花が活けられた花瓶は華やかなのに、見ても気分は冴えなかった。
*
病室に戻り、私はその花瓶を窓辺に置いた。
その間にイルカ先生は、体勢を変えていてベッドの背にもたれかかり体を起こしている。
「イルカ先生、起き上がって大丈夫なんですか?」
無理してるのではないかと心配になり、私はベッドに駆け寄った。すると、イルカ先生は明るい顔をして言った。
「もう、傷の表面はふさがっているんです。ちょっと痛みが残ってるだけなんで、大丈夫です。今の医療忍術はかなり進んでて、昨日あっという間に治療が進みましてね」
そこまで言うと、彼は照れくさそうに指で頬を掻いた。
「ナズナ先生に来てもらって、寝転んだままというのもちょっと…はは」
「そんな。気にしなくてもいいのに」
怪我をしてまで、そんなことを言うイルカ先生に頭が下がる。しかし、そこまでしてもらってすぐ帰るわけにもいかず、私はベッドの傍にある椅子に腰かけた。
「ナルト君、下忍に合格したんですね。おめでとうございます」
「ええ。無事送り出せて、本当にほっとしてます。アイツの喜びようと言ったらなくて」
顔をほころばせて話すイルカ先生を他所に、私は先ほど耳にした噂話のことを考えていた。