第10章 お見舞い
先日の封印の書をめぐる一件で、イルカ先生は大きな怪我を負ってしまっていた。そのため、木ノ葉病院に入院することになった。
私はそれを知り、翌日授業を終えた夕方に、彼のお見舞いへ行くことにした。
途中、「山中花店」で切り花を購入してから、木ノ葉病院へと向かう。明るい気分になってもらいたくて、様々な色のチューリップを選んだ。思いの外大きな花束になっており、少し可愛らしすぎたかなと、苦笑いをしながら後ろ手に持って歩いた。
*
病室を訪ねると、イルカ先生は怪我した背中を庇うように、うつ伏せにベッドに横たわっていた。
「あ、ナズナ先生」
私が病室の戸を開いたとき、彼は体を起こそうとした。反射的に動いたせいなのか、痛そうに顔を歪めている。
「痛た…」
私は思わずベッドの傍に駆け寄った。見舞いの花を脇にある机に置く。
「大丈夫ですか?ごめんなさい、急に」
「いえ、みっともないところをお見せして…。お恥ずかしい」
イルカ先生は首をこちらに向けて、照れくさそうに笑った。
「無理して起きないでください。私、お花を活けてきますね」
「すみませんねぇ」
「いえいえ。他に何か必要なものがあれば、言ってください。持ってきますから」
「はは。ありがとうございます。でも、当分大丈夫です。あの、ナルトの奴が結構気を回して、色々持ってきてくれましてね」
ベッドの周りを見ると、飲み物やら籠に入ったフルーツセット、他にも本や巻物が散乱していた。
「あらら、すごいですね。確かにこれだけあったら、当分困らなそう」
「アイツ、早く任務が始まらないかってソワソワしてて。説明会までまだ先だって言ってるのに、あちこち飛び回ってるんです」
イルカ先生は目を細めて言った。
ナルト君の弾けるような笑顔が目に浮かぶ。ずっと目指していた下忍だ。すぐにでも動きたくてうずうずしているのだろう。
「想像できるなぁ、それ」
「ナズナ先生もそう思いますか?」
「自分が下忍になった頃を思い出しましたよ。嬉しくて、私も飛び回ってましたから。あ、ちょっと水場に行ってきますね」
ほころんだ口元のまま、机の上の花を手に取る。イルカ先生に会釈をして、私は病室を出た。