第10章 お見舞い
十二年前にあった、「九尾事件」。
チャクラの化け物と呼ばれる、尾獣「九尾の妖狐」が突然木ノ葉隠れに現れて、里を壊滅状態にした事件だ。
この事件で、私は忍だった父を失った。
イルカ先生も両親を亡くしたと聞いている。
本当のところを言うと、まだ事件の爪痕は私の中に残っていた。ナルト君の体の中には、このときの九尾が封印されている。まだ赤子だった彼に、そのとき九尾と対峙した四代目火影が封印術を施したのだ。
ナルト君は一生懸命で、一途な子だ。その努力を応援したいと思っているのに、姿を見るとあの時の映像がよみがえってくるのが辛かった。
彼には何も罪はないとわかってるから、その思いを胸にしまい込んできた。
(イルカ先生は?)
(どう思ってるんだろう…)
ふとした疑問が浮かんできて、私はイルカ先生に尋ねた。その優しそうな顔を真っ直ぐに見る。
「イルカ先生は、ナルト君と接していて……辛いと思ったことはないんですか?」
その問いにイルカ先生の表情が曇った。
「あの、ナズナ先生……。一体どうしたんですか?突然そんなことを言うなんて」
「イルカ先生は、あの事件でご両親を亡くされてますよね」
「はい。でもそれは、ナズナ先生も一緒じゃないですか」
こんな話をするつもりで来たわけではないのに。
ずっと抱えてきた小さなしこりが消えていないことに気づいたら、確認せずにはいられなくなってしまった。
「そう。あの事件ではたくさんの人が亡くなりました。同じ境遇の人は、数え切れないくらいいる。だから、済んだことだと思っていたんです……」
「でも、本当はナルト君を見ると、あの事件のことを思い出してしまう。それが辛くて…。ナルト君には何も非はないのに」
口からぽろぽろと言葉が零れ落ちていく。
言ってはいけないことを口にしているような気がしてきて、声は最後には聞き取れないくらいの囁きになった。
そこまで言って、彼が今どんな顔をしているのかを、私は目にするのが怖くなってしまった。俯いて、ぐっと唇を結ぶ。