第1章 出会い
驚いて左手を見上げると、自分と同い年くらいの男性と目が合った。
黒い半袖のポロシャツにチノパン、黒いスニーカーというすっきりとしたスタイル。栗色の短髪の下に黒目の多い瞳があった。通った鼻筋に、少し窪んだ目元が年相応といった落ち着きを醸し出している。
ちょっと素敵だなと見惚れていると、少し笑って彼は続けた。
「随分と迷っているようだったから。書き心地だったら、左のノートがお勧めですよ」
「ええと、こちらのお店の方ですか?」
「いえいえ。ただの常連客です」
冗談ぽく言うものだから、思わず笑みが零れた。
「ふふ。じゃあ、やっぱりこっちにしようかな」
右手の空色のノートを棚に戻し、左手のノートを両手で持つ。
「…実はいつもこのノートを使ってるんです」
「そうなんですか。だったら、何でまた違うものを?」
「ちょっと、あまりにも実用的過ぎるかなとふと思ったんです。たまには可愛いデザインのものもいいかなって」
「へぇ。僕は一度気に入ったら、特に他のものは目に入らないですけどね。女性ってそういうところがあるのかな」
彼は顎に手を添えて、視線を落とした。
考えるときの癖みたいで、その姿は妙に馴染んでいる。
「そうかもしれませんね。綺麗なものを手元に置きたいって感覚はあるかもしれません」
「なるほど」
「でも、今日は常連客さんのアドバイスを参考にします」
「そりゃ、どうも。今後とも当店をよろしく」
「あはは」
声を上げて笑うと、彼は目を見開いた。
(あ、しまった。調子に乗り過ぎた)
何だか会話が楽しくて、ついつい声に出して笑ってしまった。初めて会う人なのに、はしたなかったと口をつぐむ。
「あ、あの…ご親切にありがとうございます。それじゃあ、私はこれで」
少しばかり恥ずかしくなり、彼に会釈をしてそそくさとお店の受付カウンターへと向かう。ノートを購入して店を出ると、彼も会計を終えて店を後にするところだった。
こちらの視線に気付いて彼が会釈をした。また目が合った気がして、私も慌てて頭を下げた。