第9章 事件
(久しぶりに見たな、あの夢……)
いつの間にか、両頬に涙が伝っていた。
手でそっと拭うと、玄関扉を激しく叩く音が聞こえた。
「一体何?」
隣の部屋で寝ていた母が私の部屋の戸を開き、眠そうな顔で言った。
「いいよ。私見てくるから」
私はベッドから起き上がり、小走りで玄関へ向かった。
玄関扉を開けると、同僚のくノ一クラスの先生がいた。酷く慌てていて、息も切れ切れに話し出す。
「ナズナ先生、大変なんです」
「あの、一体何があったんですか?」
彼女の肩に手を添えて、詳しく聞こうとした。すると、彼女は何度か深呼吸をして、息を整えると一気に言った。
「うずまきナルト君の捜索に協力してください!火影邸の封印の書が、持ち出されたそうです!」
「え?」
「まだそんなに遠くへは行っていないはず。他の先生たちも周辺を捜しています」
(ナルト君が封印の書を?そんな、まさか……)
心臓が騒がしく音を立てる。
「わかりました。すぐ支度をして来ます。…でも、そんな。ナルト君はそんなことをする子ではないはずですよ」
「どうかしら…。悪戯かも、と言ってる先生はいましたけど、私も詳しくは…」
彼女の言葉を聞きながら室内に戻り、身支度を整えた。様子を見ていた母に一言告げて、彼女と一緒に火影邸の方向に向かって走った。
(悪戯って言ったって)
全力で駆けたことと、不安や心配で鼓動が高鳴る。
例え皆を騒がせる悪戯小僧のナルト君だって、善悪の区別がつかない子ではない。それは、ときどきに触れる言動や行動でわかっているつもりだった。
(だけどナルト君は……)
ナルト君は両親を知らずに育っている。それは、彼がそうと知らずに、九尾の妖狐に大きく関わっていることが原因だったりする。
(ナルト君の深い気持ちまでは、私にはわからない)
自分の中にある、あの時の爪痕は今も消えていない。
(もう過去のことだって、納得出来てるって思ってたのに……)
先ほどの夢のせいか、私の頭の中は暗い感情で一杯になってしまった。隣を走る彼女の存在を忘れてしまうくらいに。
「ナズナ先生!何人か、先生方が集まってますよ。行きましょう!」
ハッと顔を上げると、彼女が指差す先にアカデミーの先生たちが数人集まっていた。
「あ…は、はい!」
慌てて返事をして、その集団に近付いた。