第41章 これからも — 後編 —
「あの人、誰ですか?」
彼女が興味津々で見つめる先には、テンゾウさんがいる。店内には入らずに、戸口近くで私を待ってくれていた。壁に背を預ける横顔が、カウンターから見える。
「えっと……」
どう伝えようかと迷っていると、閃いたとばかりに彼女が目を輝かせた。
「もしかして!あの人がナズナ先生の好きな人ですか?確か、昔言ってましたよね。好きな人がいるって!」
「やだ。山中さん、覚えてたの?」
「あったり前じゃないですかぁ。あれから、聞き出すタイミングを逃してたから、少し気になってたんですよね~」
表情豊かにそう言うところは、昔と変わらなくて、私は思わず苦笑いを浮かべた。少しばかり考える素振りをして、山中さんの方に顔を向ける。そうして小さな声で答えた。
「そう…私の大切な人」
内緒ごとのようなやり取りが、くすぐったくて仕方がない。彼女から距離を取り、後ろをちらりと見る。テンゾウさんに聞こえてないだろうか。
彼女はというと、小声で、きゃあ、やっぱり!なんて、体を小さくして身をよじらせた。その会話や仕草に、自分まで若返ったように胸がときめく。
「ふうん。ナズナ先生って、ああいう人がタイプだったんですね。思ってたのと違ったかも」
「そう?」
「私は…イルカ先生かなぁって、思ってたんですよねぇ。優しいし」
ふと出た名前になるほど、と納得する。
同じ職場だし、尊敬出来る人だ。もちろん優しいことも頷ける。
でも。
「ふふ……残念でした。山中さんもまだまだね」
私は、花を抱えてにっこりと笑った。