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明日晴れたら

第41章 これからも — 後編 —



「ありがとうございました!」

明るい声を背に、お店の外に出る。手には釣り鐘型をした蕾の、紫色の花がある。内緒ごとのような会話の余韻がまだあって、何となく心は浮き足つ。

「すみません。お待たせしました」
「用は足りたかい?随分と楽しそうだったね」

壁から背を離し、テンゾウさんがこちらを向いた。

「ええ、ちょっと思い出話をしていて。あの子、アカデミーの卒業生なんです」
「そう」

「月日が経つのって早いですね。もう三年以上過ぎて…まだ女の子女の子してた子たちも、すっかり大人っぽくなってるし」

先程感じた山中さんの印象を話しながら、歩き出した。
テンゾウさんもまた歩き出す。

「へぇ。それは、君の方がより強く感じるだろうね。僕はあんまり実感ないな」
「そうなんですか?」
「そりゃ、僕は大人相手のことが多いから。それほど大きな変化はないよ。君の髪が、出会った頃と同じくらいになったなと思うくらいで」
「そう言えばそうですね」

以前肩の上で切りそろえた髪は、今、背中に届くくらいに伸びている。



他愛のない話をしている内に、慰霊碑が立つ広場に着いた。

石碑に近付いて、私は膝をついた。刻まれた父の名前を手でなぞり、そっと目を閉じる。いつもそうして、父の姿を思い出してきた。面影を忘れないように。

祈りを捧げて立ち上がる。

「それが君のお父さん?」
「はい。前に話した」
「君の口癖の大元になった人だね」

テンゾウさんがふっと笑う。

「そう、明日晴れたら、って。雨だったらどうするの?と子供心に思ってたんですけど、不思議と晴れたんですよね。いつも」
「ひょっとして、言霊かな」
「かもしれませんね」

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