第40章 これからも ─ 前編 ─
「お前、結局ナズナさんとはどうなったの?」
「どうって、今まで通りですよ」
この場で意外な名前が飛び出して、少し驚く。
「ふうん。仲良くやってんのね。そりゃ、結構」
「何ですか、急に…」
僕はその場に留まって、彼の方に体を向けた。
「俺はしばらく動けないから、お前が代理を務めることになる。通常の任務も比較的長くなるだろう」
「ええ」
「彼女には話すの?」
先輩の真意は読み取れない。
僕は、少し思案してから答えた。
「もちろんです。少しだけ時間が取れそうなので、これから伝えに行こうと思ってますけど。新しいコードネームも」
「そっか」
カカシ先輩は僕の答えに満足したのか、ふっと息をつき目を閉じた。
「じゃあ、僕はこれで。先輩、どうぞお大事に」
「ああ」
もう一度声を掛け、病室を後にする。
窓から入り込んだ風が、僕の背を押した。
*
「ナズナさん」
ちょうどアカデミーに向かう途中だった彼女に声を掛ける。朝の早い時間帯、建物から出たばかりのようだった。
同じ忍び装束を纏っていることを、やけに新鮮に感じる。彼女には着慣れた服なのだろうけど。
「あれ?テンゾウさん?」
振り向いたナズナさんが、大きく目を開いた。手に数冊の本を持ち、こちらに駆け寄ってくる。
「その服装、どうしたんです?…仮面も…」
「実はね…」
僕はそう前置きして、一時的に暗部の任務ではなく、通常の任務についたことを彼女に告げた。
「そうですか…。それで、いつもと違う忍び装束だったんですね」
ナズナさんは口元に手を当てて、驚いた顔ままの顔を崩さなかった。僕の姿を上から下、前後ろまで、まじまじと見つめている。
「それでね。この任務では、新たな名前を授かっているんだ」
「新たな名前?」
「そう。この任務の間は『ヤマト』と名乗ってる。悪いけど、対外的にはそう呼んでもらえるとありがたいんだけど」
「ヤマト…さん?」
ナズナさんは、小首を傾げて繰り返した。少し眉根を寄せて考えてから、顔を綻ばせた。
「わかりました。でも、すぐにっていうと慣れませんね。間違えないように気を付けないと」
「よろしく。それだけ伝えたくて」