第40章 これからも ─ 前編 ─
「これから任務ですか?」
「うん、班員と顔合わせをする予定なんだよ。朝なら君にも会えるかなと思ってね」
「わざわざありがとう。気を付けて行ってきて下さいね」
「ああ」
少し心配そうな表情をして、彼女が言った。身を案じてくれることを嬉しく思う。踵を返し歩き出そうとした矢先、ふとあることを思いついて足を止めた。
振り向くと、ナズナさんはまだ僕を見ていた。
一歩二歩と彼女に近づき、彼女の耳元で囁く。
「…二人きりのときは、『テンゾウ』で構わないから」
顔を離して改めて向き合うと、ナズナさんの顔が見る見るうちに赤くなった。何を想像して赤くなったのかはわからないが、その表情は可愛らしくて、僕の顔は知らぬ間に緩んだ。
「もう!」
軽く拳を上げる彼女を避けて、僕は背を向けた。顔だけ振り返り、足を速める。
「じゃあ、行ってくるよ」
「行ってらっしゃい」
そんななんでもないやり取りが、嬉しくもあり気恥ずかしかった。背後に彼女の気配を感じつつ、僕は大きく跳躍した。建物の上へと降り立ち、屋根伝いに集合場所へと向かう。
頬に直接当たる風が、心地よかった。