第39章 隣
アカデミーの横を通り過ぎて、尚も駆けに駆ける。賑やかな商店街も人波を何とか除けて進み、公園までの階段を息を切らせながら上った。
振り返ると、辺りはもう薄暗くなっている。深呼吸をして、公園内を見渡した。
木の傍のベンチに人影がある。
小走りで近付くと、その人が振り返った。私は思わず名前を呼んだ。
「テンゾウさん…」
「ナズナさん、会えてよかった。今日帰ったところでね」
テンゾウさんが薄く笑う。
「戻ったら、何通も手紙が届いてて驚いたよ。心配をかけてしまったかな」
「それは……何かあったんじゃないかって」
駆け寄って、あと一歩というところで私は立ち止まった。里の明かりで少し明るくなった空を背に、テンゾウさんが首を傾げた。
「どうかした?」
「あの、わざわざ手紙を届けてくれたんですね」
「うん。もう飛ばすにはちょっと暗くなりすぎてたからね。確実にって思ったら、足が向いてたよ」
テンゾウさんに促されて、ベンチに並んで腰掛ける。眼下には、幾つもの里の明かりが見える。
走ったことで早まっていた鼓動は収まっていたのに、隣の存在を意識することでまた高まった。ドクンと耳に響く。
「テンゾウさん、私…」
「何?」
横を見上げると、彼の黒く光る瞳が私を見返した。
唐突だとは思ったけれど、今を逃したらまたいつ会えるかわからない。そう感じて、私は口を開いた。
「私も…私も、テンゾウさんが好きです。初めて会ったときから」
「……」
口はカラカラに乾いて、声は震える。
「あのときすぐに答えたかったけど、言えなくて。会える日をずっと待ってました」
胸が詰まってしまい、言葉はすぐに出てこない。けれど、絞り出すように私は続けた。そんな私を、テンゾウさんがじっと見つめていた。
「笑ったり、悲しんだり、気持ちを分け合うのはテンゾウさんがいい。同じ方向を見て、隣を歩いて行く人は貴方がいい」
「そう思ったんです。……だから、私と一緒にいてくれませんか?これからも」