第39章 隣
家に戻ると母が帰宅していた。台所の方から声がする。
「あら、ナズナ。遅かったのね」
「ただいま。買い物とか、口寄せの報酬を渡してたの」
「そう。やっと一段落ね。お疲れ様」
「ありがとう。お母さんはまた病院?」
台所に立ち寄り、母と話した。母はお茶を飲みながら、円卓に座っている。手元には医療用のキットがあった。
「さっき急な呼び出しがあってね」
「そう、相変わらず忙しいのね」
「いいのよ。私は満足してるから」
母が立ち上がり、私を見る。疲れた様子などなく、笑顔だった。
「自分の持つ能力が生かせる場所にいられるなんてね」
「そっか」
「ナズナもそうでしょ」
「うん、まあ。そうね」
頷いて部屋に戻ろうとすると、母が私を呼び止めた。
「そうだ。アンタが居ないとき、手紙を受け取ったわよ」
「はい、これ」と、円卓の上に置いてあった白い封筒を手に取り差し出した。
受け取り、宛名と差出人を確認する。表には私の名前と、裏側にはテンゾウとある。
「え?」
私は驚いて母の顔を見た。円卓の前にいる母に詰め寄る。
「こ、これ……。一体いつ受け取ったの?」
「いつって、ナズナが留守中に。テンゾウって人が直接届けに来たわよ。アンタに渡してほしいって」
「うちに来たの?」
「ええ。夕暮れ時だったかしら…。すぐに帰っちゃったけど」
私は手紙を手に、急ぎ部屋へと戻った。ベランダに飛び出て、人影を探す。しかしもう完全に日が落ちてしまい、流石にわからなかった。仕方なく部屋に入り、封筒を恐る恐る開いた。
中の文章を目を皿のようにして読む。返信が遅れた謝罪と共に、今日の日付があった。もし時間が取れるなら、火影岩前の公園で、と記してある。
(今日?)
すっかり薄暗くなった窓の外を見る。
もしかして待っているのかもと、私は手紙を机の上に置いて、部屋を飛び出した。
「お母さん、私出掛けてくる!…ごめん、戸締まりお願い」
まだ出かける準備をしている母に、慌てて声をかけて玄関から走り出る。
「ちょっと、ナズナ。どうしたの?」
母の声を背に、そのまま火影岩へと走った。