第39章 隣
私は、ずっと考えていた答えを彼に伝えた。思いの丈を言葉に出来て、ほっと息をつく。
公園は薄闇に包まれて、人っ子ひとりいない。ふわりと風が通り過ぎて、私の髪を揺らした。
ふとテンゾウさんの顔を見上げると、彼は口元に手を添えて考え込んでいた。しばらくして困ったように笑う。
「あの、ナズナさん?」
「は、はい。何でしょう」
「君の気持ちは嬉しいんだけど、ちょっと……」
戸惑いを見せる彼に、さっと顔が青ざめる。
(私、何か変なこと言った?)
「それって、何だかプロポーズみたいに聞こえるよ」
「ええ!?そうじゃなくて、それもあるけど……」
テンゾウさんの指摘で全身が熱くなる。私何を言ってるの?と思わず両手で両頬をぐっと押さえて体を縮める。
弁解するつもりで顔を上げる。すると、テンゾウさんの顔が近付いた。彼の黒い瞳に私の顔が映る。
「僕としては、まずお互いを深く知ることから始めようかと思うんだけど」
テンゾウさんの手が、私の頬に触れた。吸い込まれるように、その瞳から目が離せない。
「ナズナさん…君はどう思う?」
私も…と答えようとしたけれど、彼の唇で塞がれてしまい、声にはならなかった。