第38章 伝えたかったこと
私はテンゾウさんの突然の話に戸惑っていた。妙な胸騒ぎがして、必死に訴える。テンゾウさんは私の目をじっと見つめた。瞳には暗い影が宿る。
「本当に?」
その謎めいた表情に、どきりと心臓が跳ねた。俯いて言い淀む。
「それは、その…何もかも理解してる訳じゃありませんけど」
何とかそう言うと、静かに笑う声が聞こえた。
「ごめん」
「……意地悪」
試すような言葉に、少し頬を膨らませる。
「…確かに私、知らないことが多い存在だとは思ってました。でも一人一人は違うでしょう?」
「何故そう思うんだい?」
私の顔を覗き込むテンゾウさんは、もう優しい眼差しに戻っている。
「この間の襲撃の際、私アカデミーから生徒を連れて避難所に向かっていたんです。敵に見つかって、もうどうしようないときに、通りかかった暗部の人が助けてくれた」
「……」
「その人は、私の何でもない話をじっと聞いてくれたんです…きっとすごく急いでいたと思うのに」
「こんな人もいるんだって、初めて知って」
満足にお礼も言えなかったと呟いて、私は外に目を向けた。
火影様を通して、と母と話していたけど、今はそれも叶わない。里は長が不在の状態にあり、それどころではないのだ。
思わず溜息をつくと、テンゾウさんがふっと笑った。
「例えばそれって、こんな仮面を着けてた人かい?」
冗談ぽい声色に振り向くと、猫の仮面を着けた人がいる。姿形はあのときの人と瓜二つ。
「そう、そうです!まさか……」
仮面を外して、テンゾウさんが苦笑した。
「ナズナさん。……君があんなに無茶をする人だとは思わなかったよ」
「じゃあ、あのとき助けてくれた人って」
私はまた両手で顔を覆った。
「間に合って、本当に良かった。倒れているのが君だと気付いたときは、生きた心地がしなかったよ」