第38章 伝えたかったこと
明るい陽射しの中、テンゾウさんが瞳をすっと細めた。
「ナズナさん。今まで僕は君のことを、どこか、遠い世界に住む人のように感じていたんだ。僕とは違うってね」
「……テンゾウさん」
「だけど昨日、君が隣にいてくれたとき……やっぱり君がいいって、そう思ったんだ」
マシロが肩から飛び立って、巣箱へと戻る。肩が少し軽くなり、爪の感触が消える。でもその姿を見る余裕もなかった。
彼の言葉の一つ一つを聞き逃すまいと、私は耳を傾ける。
「ナズナさん……僕は君が好きだ」
熱を帯びた瞳で見つめられ、体がじわじわと熱くなる。
「すぐにとは言わない。君の気持ちも教えてくれないか?」
テンゾウさんは微動だにせず、はっきりとそう言った。
(待っていてほしいって、そういうことだったんだ)
テンゾウさんについて、曖昧だったことが次々とつながっていく。時々浮かび上がる暗部という存在が、こんなにも近くにあったなんて。
心臓の音が早くなる。
答えなんてとっくに出ていた。
「テンゾウさん、私…」
頬の熱を感じながら口を開いた。
けれど、その言葉は鳥の鳴き声で遮られた。ピィと高く響き渡る声を聞いて、テンゾウさんは空を見上げる。
「連絡を待ってるよ。……いずれ、また」
彼はうっすら笑みを浮かべて、素早く仮面を装着した。
そして、煙と共に姿を消した。