第7章 行きつ戻りつ
執務室を退出した後、先輩は深い溜息をついた。こちらを振り向くと、
「あと、よろしく」
低い声で一言そう言って、煙に紛れて姿を消した。
僕らは、拘束した者たちの調査日程を含め、今後の方針について話し合った。概ね決まったのは、一時間ほど経った頃だった。
*
僕は自宅へ戻り、忍び装束を脱いだ。猫の顔を模した面を外す。汗を軽く流した後、外出するために身支度を整えた。
今回班で共に行動した二人には、家族がいる。食事に誘おうかと考えたけれど、会話の中でふと出た妻や子を思う言葉を聞いて止めることにした。
僕は独り身で、今は恋人もいない。
同じく家族を持たないカカシ先輩とは、任務上がりによく飲みに行っていたが、今日先輩はいない。仕方なくひとり木ノ葉茶通りに向かった。
表通りを進んだ先には、人気の中華居酒屋「酒酒屋」がある。メニュー豊富で価格もお手頃な店だ。忍者からそうでない人まで来店し、いつも多くのお客で賑わっている。
けれど、その賑わいに身を置く気分でも、ボリュームのある料理を味わう気分でもなかった。
そのため、僕は表通りを一本入った路地にある、小さな居酒屋に足を運んだ。
暖簾をくぐって店内に入ると、カウンター席に見慣れた銀髪を見つけた。店内に入ってすぐのことだ。敢えて避けるのもどうかと思い、彼の座る席に近づいた。生憎と、空席は彼の隣と壁際の二席のみだった。
「隣、いいですか?」
僕が声をかけると、カカシ先輩がゆっくりと顔を上げた。意外にも結構な量を飲んでいるらしく、普段の眠たげな眼が一層緩んで見える。
「何だお前か。……嫌なときに会うね」
彼は一人酒を飲んでいた。手元には何本かの徳利とお猪口、そして焼き茄子の小鉢がある。
返答があったことで同意を得られたと思い、僕は席に腰を掛けた。店主に彼と同じ酒と、和え物の小鉢を注文する。