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明日晴れたら

第7章 行きつ戻りつ



注文の品を待つ間、僕は静かにお猪口を傾けるカカシ先輩の様子を見た。

「珍しい。随分と深酒じゃないですか」

彼の酒の飲み方はスマートで、普段は酔った様子など見せず、面倒な愚痴が始まりそうになると「じゃ、俺はこれで」と颯爽と去っていく。それ故、一緒に飲んでいるといっても、一人飲みの時間が長くなることが多い。

「そうか?」

聞き流すように彼は、また酒をグイっと飲みほした。

「そろそろ帰ろうかとは思ってたけどね」


はっきりとは口に出さないが、思い当たるのは先ほどの任務の件だろう。

カカシ先輩は、しばらく前に三代目から正規部隊への異動を言い渡されていた。現在は暗部ではない。

国外にも轟く異名を持つ、里内では名の知れた人だ。実力を買われて上忍の任務以外にも、こうして緊急の場合は、暗部の任もこなしている。


「今回の件、助かりました。先輩の手が空いていて」
「ん?ああ。ま、暇だったからな。俺としても丁度よかったよ。戦場から離れると、途端に勘が鈍るからさ」

先輩はぼんやりとした顔をして、お猪口を置いた。頃合いを見計らったように、店主が湯呑みに入ったお茶を出す。

「ところで、先輩が暗部を抜けてから結構経ちますけど、お眼鏡に叶う下忍はまだ見つからないんですか?」

そう僕が問うと、彼はこちらを見て目を細めた。

「何が言いたい」
「先輩の深酒の理由が気になりまして」
「やけに絡むね、お前」

鋭い視線をかわして、僕は出来上がった注文の品を店主から受け取った。
徳利を傾けて、酒を勧める。

「どうですか。もう一杯」

一瞬戸惑いを見せつつも、先輩はお猪口を手に取った。

「三代目の言葉が堪えたのかなと思っただけですよ。あの温厚な三代目にしては、厳しい一言だったなと。先輩のあんなに動揺した姿、初めて見ました」

そう言うと、彼は深く息を吐いた。視線を落としてぽつりと呟く。

「…ま、どーもね。実際、最優先にしなきゃいけない事は一向に進んでないからな。仕方ないか」
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