第37章 悲しみにくれて
火影様の葬儀は程なく終了し、一人一人と広場に集まった人たちが帰って行く。皆名残惜しそうに、後ろを振り返っていた。その姿を見送る。
「遺影や花はそのままでいいんですよね」
「ええ、しばらくは。もしかして遅れてくる人もいるかもしれない」
私は葬儀の後片付けを手伝っていた。
里中が喪に服し、アカデミーも数日は休みで時間があったからだ。母は今回の襲撃で傷ついた人たちの治療に、また従事している。イルカ先生は、子供たちを送り届けるために会場を出て行った。
数人の里の忍たちで周囲を見回る。大してやることはないのにその場を去りがたく、私は台から落ちた菊の葉を拾ってみたりして、いつまでもぐずぐずしていた。
そうした片付けで残った仲間たちも葬儀場を去り、私だけが広場に残っていた。
*
そろそろ帰ろうと、献花台から離れようとしたときだった。
振り返った先に、喪服に身を包んだ人がいた。階段の傍にある柵の前に一人。足音も立てずに、こちらに真っ直ぐに歩いてくる。
「テンゾウさん……」
雨に濡れた髪から、雫が滴っていた。
声に気付いた彼がこちらに顔を向けた。
「ああ、ナズナさん……」
その瞳は真っ暗だった。
放心した状態で、テンゾウさんが静かに微笑む。雨の雫が頬を流れ落ち、涙のように見えた。
胸がぎゅっと締め付けられた。あんなに悲しそうな顔は初めて見る。
私はゆっくりと近付いて、声を掛けた。
「どうしました?葬儀は先程終わりましたよ」
「そうなんだ…随分と遅れてしまったな」
ちょっと離れた場所にいたんでね、とテンゾウさんは火影様の遺影に視線を向けた。
「もしかして、葬儀に間に合わなかったんですか?」
「うん、残念ながらね。ナズナさんは?何故まだここに?」
「私は会場の片付けを手伝おうとして……でもこれと言って何もできませんでした。何となくぐずぐずしてただけで。そろそろ帰ろうかと思っていたところです」
「そう」