第37章 悲しみにくれて
「……暗部の人?じゃあ…」
あの時助けてくれた人の面影が脳裏に浮かぶ。確か、猫の顔のような仮面を付けていたはず。上体をまた起こして、母を真っ直ぐに見た。
「その人って、猫の顔に似た仮面をした人?」
「そうよ。アンタを下ろして、すぐ試験会場の方に走って行ったって。私は他の人の手当てをしてたから、はっきりとは見てないけどね」
「……そうなんだ」
俯いて黙り込むと、母が顔を覗き込んできた。
「ナズナ、大丈夫?具合悪くなった?」
「ううん、違うの。それだけだと、その人にお礼も言えないなって思って。暗部じゃ、どんな人かもわからないでしょ」
諦めたように薄く笑うと、母も困り顔をする。
「そうねぇ。仮面の紋様だけじゃねぇ。わざわざそれだけのために、火影様にお尋ねする訳にもいかないでしょうし」
「だよね……。火影様を通して、お伝えするくらいか」
「まあ。それくらいならいいんじゃない?」
母は私の話を聞きながら、薬を準備していた。栄養剤のようなものだろうか。飲みなさい、と小ぶりな陶器の器を差し出してくる。それを受け取り続けた。
「あのね。私、暗部所属の人って、もっと怖いと思ってたの。戦ってるところとか、走り去る姿しか見たことないし」
器に入った液体を一口飲む。薬草の独特の香りが鼻に抜けていく。
「でもその人は違ったの。……私の話に耳を傾けてくれたし、急かしたりもしなかった。きっと急いでたはずなのに」
母が神妙な顔をしていたから、にっこりと笑いかける。
「あんな人もいるんだって、驚いたのよ。ただ知らなかっただけで」
*
薬を飲み終えて器を母に渡した。少し体が楽になる。また横になろうとすると、天幕の外が騒がしくなってきた。
「火影様が!」
「何?一人で戦っておられるのか!」
「強力な結界が張られて、誰も踏み込めないんだと」
「あの大蛇丸か!」
緊張した声が飛び交っている。母と顔を見合わせて、私たちは天幕の外へ出た。