第37章 悲しみにくれて
ぼんやりとした意識の中で、人々の話し声が遠くで聞こえてくる。
私はゆっくりと目を開いた。
*
天幕で仕切られた空間に横たわっていた。上体を起こそうとしたけれど、疲労感から動けなかった。頬がピリッと痛む。
(ここは……)
首だけ動かして、天幕が切れた隙間に目を向けた。ぼやけた視界に人々が動く影が映る。光が入ってくる隙間から、白い服の人が入ってくる。
「あ、目が覚めた?」
「お母さん…」
ほっとした顔をして駆け寄ってきたのは、母だった。医療班の作業服を着ている。
「もう、アンタ何やってるの。先生方が心配してたわよ」
「え?」
(ああ、そうか。私……)
足止めをと飛び出して、敵の忍と戦っていたことを思い出した。気付いた瞬間、私は勢いよく起き上がった。
「お母さん、一緒にいた先生は?避難中だった子たちは?」
傍にきた母に詰め寄り、咄嗟にその手をつかんだ。途端に頭がくらくらとしてそのまま俯く。
「ちょっと、そんなに急に起きたら体に毒よ」
母が溜息をつきながら、私の体をまた横にした。
「怪我した先生方は向こうで治療済みよ。ほら、今休んでる。子供たちも何とかここにたどり着いてるから」
首を捻ると、二、三人の床を挟んで男性教師が眠っているのが見えた。ほっとして息を吐くと、母が静かに言った。
「ナズナ…口寄せに成功したのね」
母を見上げて、私は無言で頷いた。やっと、と呟いたが掠れて声にならなかった。
「頑張ったわね」
母が私の片手をそっと握った。そのぬくもりと、優しい眼差しで心が安らぐ。必死でやったことが報われたように感じた。
私は床の横に置いてあった水差しで水を飲み、乾ききった喉を潤した。そして、気になっていたことを聞いた。助けてくれた人の記憶が微かにある。
「ねぇ、お母さん。私、一体どうやってここに?口寄せをしてすぐ、倒れてしまったはずなの」
母は手早く脈を測ったり、私の頬の傷を診ている。母が頬に手をかざすと、その手が仄かに光り痛みが引いた。
「ああ、それね。どうも暗部の人が運んでくれたみたいよ」