第35章 戦闘
「ぐわっ!」
奮戦していた男性教師が風の刃に傷つき倒れる。後方を見ると、また新たな追っ手の影が見えた。
(ああ!私の力じゃ、もう……)
足が震え出す。
後は、チャクラのある限り同じように戦うしかない。
思わず手裏剣を握りしめたとき、手の平が切れた。そこから血が滲む。その痛みで目が冴えた。
(そうだ……口寄せ!)
倒れた男性教師を庇い、相手の忍の前に立つ。
「ナズナ先生…逃げろ!」
「貴方を置いては…。私は大丈夫」
「何を言ってるんだ!俺はいいから早く!」
脇腹から血を流し、苦しそうな顔をする彼に笑いかける。
印を素早く結び、手の平に滲んだ血を地面に擦り付ける。神経を研ぎ澄ませて全身のチャクラを手の平へと集中させた。体が燃えるように熱くなる。
(これなら!)
「口寄せの術!……出でよ、黒王!」
*
次の瞬間、土煙が舞い地面が大きく揺れる。白い煙の中に巨大な黒い影が見えた。私は、首が痛くなるほどに上を見上げた。
「……久しぶりだなぁ、嬢ちゃん」
姿を現したのは、岩のような大きさの熊。緑がかった黒い目が私を見下ろしている。
昔々に見た「黒王」だった。
「な、何だ…この巨大な熊は」
背後の男性教師が驚いている。その声を聞いて私も我に返った。
「あ、あの私の口寄せで…」
「ナズナ先生、口寄せなんか使えたのか」
「いや、使う機会がなくて…」
周囲が呆気に取られている内に、もそもそと説明する。すると、頭上から唸るような声が響く。
「それで一体、俺に何の用だ?近頃、山の兄弟たちが頻繁に呼び出されてると思ったら、嬢ちゃんだったか」
苛立ちを含んだ声が降ってくる。
「お願い!今は戦争なの。この人と、逃げ遅れている人たちを運んで!」
前方の逃げ遅れた人たちと、追っ手に視線を向ける。追っ手はまた数人と増えている。
黒王は、ゆっくりと頭部を動かして前後を見た。
「報酬は?」
「蜜二十壺」
「さて…」
「りんご三十個つける!」
「いいだろう。引き受けた」
遙か上から私を見下ろして、黒王が笑ったように見えた。