第35章 戦闘
彼は周囲に振動が起こる程の唸り声を上げた後、倒れたままの男性教師を口にくわえて背に乗せた。四つん這いになり、私に顔を近づける。
「それで、嬢ちゃんはどうする」
「私は、少しでも足止めを」
息を呑みそう言うと、彼は豪快に笑った。
大きな口から熱い息が吹き出す。
「いい心掛けだ。でかくなったなぁ、嬢ちゃん」
巨大な前足が頭の上にそっと載る。屋根の下に入ったように私の周りには影が出来た。
「アイツも喜んでるだろうよ」
そう呟くと、彼は土煙を立てながら進んだ。怖がる子供やお年寄りを、有無を言わさず背に乗せて勢いよく走り出す。
その風圧で街路樹がしなる。近付いてきた追っ手が、後ろに転がった。
(出来た…私…)
遠ざかる黒い影を見送っていると、目の前が霞んできた。足元がぐらつく。
ぼんやりとした視界に、転がっていた忍たちが立ち上がって走り出すのが映った。
「アイツらを追え!」
「……待って…」
それを止めるため走り出そうとしたけれど、脚は言うことをきかなかった。
(もうチャクラが…)
片膝をつき、クナイを地面に突き刺す。何とか立ち上ろうとしたが、体は前のめりに崩れ落ちていく。
(誰か、誰か…皆を守って…)