第34章 混乱
「という訳で、封印術というのはある場所に対象を閉じ込めたりするものです。例えばこの巻物の中に、任務中に必要な大きなものを入れて置いたりすることも出来るの」
「じゃあ、お弁当とかお菓子とかも?」
一人の女生徒が声を上げる。
「うん、そうだね。そんなにたくさん持ってくの?」
「へへ。一杯持ってったら皆で分けられるし」
その言葉に周りの女の子が笑う。
「それはいいかもね。持ち物を少なくしたいとき、担当を決めておいて封印した巻物を持っていったら、皆食べ物に困らないかも」
「そっかぁ」
教壇に置いた巻物を手に取り、私は続けた。
「でも、大体は戦闘のための忍具とか、たくさん持つと重いものをね。特殊な暗器などは、こういった巻物に収めておいて必要なときに取り出したり、場合によっては亡くなった人を運ぶために使ったりもします」
「ええ!死体とか?」
怖い!と、小さく震える声を出す子がいる。皆肩をぎゅっと縮めて、隣の子と顔を見合わせた。
「そうね。それから、大規模な術をある地域に留めたり、危険な人物の動きを封じたり、閉じ込めたりすることもあるかな。その場合は巻物じゃなくて、箱や場所、建物周辺に術式を施したりするの」
黒板に基本的な封印術の術名を書きつけながら説明をしていると、教室の扉が勢いよく開いた。
「ナズナ先生!緊急事態です!」
息を切らせて、女性教師が駆け込んできた。肩で息をしながらこちらを見る。子供たちに待つように言って、私は彼女の近くに寄った。
「どうしました?」
「同盟国の裏切りがあって、この里が攻撃されています」
「え?」
驚いて目を見開く。
そのとき窓の外で大きな音がした。地響きが起こり、床が揺れる。
教室の外もにわかに慌ただしくなってきた。教師たちが廊下を走り、各教室に避難連絡をする声が飛ぶ。
「急ぎ、生徒たちを連れて避難をしてください」
「先生は?」
「私はもう一つの教室に伝えてから、追いかけます。先に行ってください」
彼女は息を何とか整えて、すぐに廊下を走っていった。