第33章 予兆
「この試験期間……何か大きなことが起こりそうですね」
何か嫌な予感が胸をよぎる。
「まったく、嫌な空気だよ。ただ教え子の成長を見守るって感じじゃないね」
「ええ」
僕は、疲れた様子を見せる先輩に目を向けた。
先輩は一度俯いてから、顔を上げた。
「俺は、アイツに身を守る術を教えるくらいしか出来ないけど…」
先輩は、屋根の上から遙か遠くに目を向けた。
視線を追うと、その先には歴代の火影の顔が刻まれた岩壁があった。
「先輩は、この後どうするんですか?」
「ん、ああ。またサスケの奴と修行かな。本選までもうひと月もない。どこまでやれるか分からないが、新技を開発中」
「随分な力の入れようですね」
先輩はこちらを見て微かに笑った。
「何、アイツは俺と似たところがあってな。教え甲斐がある。ま、可愛くはないけどね」
「なるほど」
先輩に似ている子供と言えば、確かに聡い分どこか冷めた性格を彷彿とさせる。出会ったばかりの頃を思い出して、僕はふっと笑った。
「お前、何笑ってんの?」
先輩は訝しげな表情で僕を見た。
「いえ、何でもありません。なら、しばらくはその子に掛かり切りな訳ですね」
「ああ、そうなるな。本選までに新技が仕上がれば上出来ってとこかな」
「そうですか…。そうなると、いいですね」
カカシ先輩は、先ほどとは違う明るい表情をしていた。
僕は彼の変化を肌で感じていた。自らの教え子を持つことで、カカシ先輩はその先の未来に目を向け始めている。
カカシ先輩は、どこにいても成果を上げられる優秀な人だと思う。それでも自分の教え子たちについて朗らかに語るとき、三代目がしきりに正規部隊の任務を優先するようにと勧めていた理由が分かる気がした。
「さ、俺はそろそろ戻らないとな。アイツも流石に痺れを切らしている頃かも」
「じゃあ、僕もこれで」
立ち去ろうとすると、後ろから声を掛けられた。
「本選の警備、よろしく。頼りにしてるよ」
「ええ、お任せください。僕たちは、里のために最善を尽くすのみです」
振り返り、決まり文句のように僕は答えた。その言葉に、先輩が片手を軽く上げて笑う。勿体ぶった物言いに呆れたのかもしれない。