第33章 予兆
「実は、一応お前にも知って置いて欲しいと思って言うんだけど……」
先輩は背を丸めて顔を下に向けた。
「大蛇丸が里に侵入したってのは、知ってるな」
「ええ。三代目から伺っています。あの伝説の三忍の、ですよね。随分前に里抜けした…」
「ああ、そうだ。お前にも浅からぬ縁のある人、かな」
先輩は静かに呟いた。
「確かに関わりはあるかもしれませんが……。僕は全く面識はありませんからね。噂で知るだけの人としか」
大蛇丸は三代目の教え子であり、過去の戦争で名を成した凄腕の忍である。三代目の教え子は皆、優れた偉業を成し遂げた者ばかりだか、彼は特に忍術開発において危険視されていた人である。
過去人体実験までして探究した術の内の一つが、木遁秘術だった。僕は彼の被験者で、実験体とされた六十人唯一の生き残りだ。
彼はその実験の行方を見届ける前に里を抜けており、そのことは知らない。僕も当時は赤子同然だったため、指名手配者が記されたビンゴブックにある写真の印象しかなかった。
「正直、会うもんじゃないね。想像以上だったよ」
更に低くなった呟きに、僕は耳を疑った。
「まさか先輩……直接対峙したんですか?」
「ああ。一矢報いればと思いもしたんだが、殺気だけで身動きもとれなかったよ。そのまままた雲隠れ」
はぁ、と先輩は溜息を漏らす。
「…先輩が?」
体が強張る。忍の技と言えば、暗部随一と言ってもいい彼が気圧されるなんて。驚き言葉を失っていると彼が続けた。
「大蛇丸はどうも、サスケ…うちはの能力を狙ってるみたいだ。予選後衰弱していたサスケを襲撃してきた。暗部数名で警護していたにも関わらず」
「そんな!」
先輩は顔を上げた。その顔は苦悩に歪む。
「俺が指名した奴らばかりだが、彼の部下一人に全員やられた」
「でも、うちはの彼は無事なのでは?」
「ああ、何とか間に合った。それからは俺が指導としてついているから、怪しい動きはない。だが…」
「大蛇丸は、まだ里の中に潜伏している訳ですね」
「そういうこと。ま、いずれ三代目から、指示があるだろうけどね」
言い切って、カカシ先輩は深く息を吐いた。