第33章 予兆
食事を終えて、僕たちは店を出た。
「ご馳走様でした。私、これで失礼します」
「ああ、また。僕はカカシ先輩と少し話があるんで」
「ええ。今日はありがとうございました、テンゾウさん。カカシさんも」
「どーも。本選では応援よろしく」
「もちろんです!」
笑顔で手を振るナズナさんを見送る。隣を見ると、先輩もまた手を振っていた。視線に気付いた彼がちらりとこちらを見る。
「邪魔しちゃった?」
「…いえ」
先輩はいつものように、両手をズボンのポケットに入れて歩き出した。歩調を合わせて僕も歩き出す。
「結構いい子じゃないの、ナズナさん」
「はい」
「どこで知り合ったの?」
「商店街で偶然です」
「へぇ。その割に続いてんのね。忙しいでしょ、お前さ」
「そこは、何とか都合をつけて」
並んで歩きながらも、視線を合わさずに前を向いたまま話す。表通りを右に曲がり、路地に入った。
「ああいう堅実な子って、案外身近な人の良さに突然気付いてさ。その人とあっさり結ばれるってありそうだよね」
「……一体何が言いたいんです?」
「あんまりのんびりしてると、誰かに取られるかもしれないって忠告をね」
僕たちは、路地の突き当たりまで来ていた。大きく跳躍し、道の脇にある建物の二階の屋根に降り立つ。とん、と屋根の上に軽く音がした。
上から見下ろすと、路地裏には人っ子一人いない。屋根の上は更に静かだった。
「…それで、何の話ですか?」
僕は、カカシ先輩に向き合って尋ねた。
「あ、気付いてた?」
「ええ。まさか先輩が、僕を揶揄うためだけに姿を現す訳ありませんから」
「ま、面白かったけどね。やきもきしてるお前を見られてさ」
先輩が片眼を細める。その表情を見て、本当にただ揶揄いに来たのではと思ったくらいだ。
「テンゾウ、お前さ。本選で警備に当たるの?」
「中忍選抜試験ですか?」
「ああ」
「そうですね…僕は会場ではなくて、里周辺の警備の予定だったかと。会場での警備は他の暗部が任されてます」
このことに関しては、試験が開催される度、暗部が携わるのが通例だった。木ノ葉の長、火影と砂隠れの里の長、風影が観戦するため、厳重な警備がなされる。
「それが何か?」