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明日晴れたら

第6章 光と影



その日も、空いた時間に木ノ葉茶通りを訪れていた。眩しいくらいの陽射しに目を細め、のんびりと歩き、必要なものを買いそろえる。

記録帳として使っているノートが残り少なくなっていたことを思い出し、よく行く文具店に入ったときだった。


そこで彼女と会った。

目指す商品棚の前で、両手に違う種類のノートを持ち、じっと考え込んでいる。右左と移る視線で、選択に迷っているのがすぐにわかった。

左手には、僕が気に入って使っているノート。

すっと近づくと、眉間にしわを寄せて彼女はまだ考えている。何をそんなに迷うことがあるのか、というのが気になったのと、自分のお気に入りを誰かに伝えたいことが重なって、思わず声をかけてしまった。

振り向いた彼女は、僕の顔をまじまじと見て瞳を瞬かせた。そこには見ず知らずの者に話しかけられたときの、警戒の色は全くなくて正直驚いていた。

この里は忍の里だ。

里の住人には忍者が多い。こうして会話が生じたとき、多くの人は本人も無意識の内に、警戒心が生まれるものだと思う。僕はそれを経験上察知することが出来たから、相手が気づかない内に適切な距離を取るよう、心掛けている。

だから僕は、彼女は忍者ではない、もしくは負の感情から遠い場所で生きている人なのでは、と推測した。自分と違い、明るい日の下をずっと歩んでいる人なのではないかと。それだけで、眩しいものを見るような気持ちになった。


少し話を聞くと、彼女も僕と同じ物を愛用していることがわかり、なんとなく嬉しくなった。彼女は僕の勧めに従ってノートを選び、最後には本当に楽しそうに笑った。


明るい声が耳に心地よく響く。

自分の話でこんなに他人が喜んでくれた経験はあまりなかったから、呆気にとられてしまい、何も言わず彼女をじっと見つめていた。そのため、彼女ははっと口をつぐみ、恥ずかしそうに足早に立ち去ってしまった。

胸には温かな余韻が残っていた。

彼女が立っていた場所を見つめ、慌てて棚からノートを手に取る。彼女を追うように会計を済ませ店を後にすると、先に店を出た彼女が後ろを振り返った。僕が会釈して彼女が応える。

そのとき、視線が合った気がした。
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