第31章 途絶えた知らせ
病院の門を出て、私ははたと思い出した。
(そう言えば、この辺りって……)
周辺を見渡すと、いくつか集合住宅が並んでいる。
テンゾウさんから聞いた、彼の家の近くに来ていた。
(確か、この通りを進んだ先だったはず…)
まだ昼前で、時間には余裕がある。
立ち止まったまましばらく考えて、結局私はテンゾウさんの住む建物を探すことにした。
*
何人かの人とすれ違いながら、通りを進む。三階に住んでいると聞いたから、並ぶ建物の上部を眺めながら歩いた。
(あ、ここみたい…)
目指す建物を見つけて、三階辺りを見上げる。
下からでは、テンゾウさんの在宅状況は分からない。
(さすがにいないよね)
ここまで来て納得出来たのもあり、私は来た道を戻ろうとした。招きもされていないのに、訪問するのも気が咎(とが)めた。
(手土産もないし、帰ろ)
一息ついて前を向く。すると、声を掛けられた。
「……ナズナさん?」
振り返ると、そこにはテンゾウさんがいた。
「……テンゾウ、さん?」
黒いTシャツにベージュのパンツを履いている。買い物帰りなのか、手に紙袋を下げていた。不思議そうに、私の顔を覗き込んでいる。
「あの、用事があってこの近くに来ていて…」
「そうなんですか。また偶然ですね」
彼はそう言って、微笑んだ。
「……ええ」
あまりにあっさりと、逢いたい人と会えてしまった。
微笑むその顔をじっと見上げる。無事な姿に安心して、惚けたようにそのままでいた。
「どうしました?」
気付いたら、目が潤んできた。目を手でこすり、誤魔化すように笑う。
「ああ、元気そうで安心しました」
「ナズナさん?」
「私用事を思い出したんで、これで」
動揺してしまい、背を向けて歩き出す。
あんなに会いたかったのに、私は心とは裏腹な行動を取ってしまった。
一歩踏み出したとき、彼は私の左手をぐっと掴んだ。
振り返ると、彼が悲しげな表情を浮かべている。
「テンゾウさん…」
「僕の家すぐそこなんです。…折角だ。寄って行きませんか?」
そう言った後、テンゾウさんは手を離した。
「任務から戻ったばかりで何もなくて…お茶くらいしか出せないけど」
彼は、少し困ったような表情を浮かべている。
どうしようか迷っていたけれど、しばらく間を置いて私はこくりと頷いた。