第30章 大樹の根のように
しばらく根で任務をこなす内、相棒と呼べる人物も出来た。
それが、彼だった。
忍術を発動させる際に用いるチャクラには、いくつかの性質がある。
僕は、水遁を操る水の性質のチャクラと、土遁を扱う土の性質のチャクラを持っている。その両方を同時に使うことで、木遁は生まれる。
融合させることは、「血継限界」と呼ばれる特殊な技術で、それを持つ一族など一部の忍しか使えない。
そうしたチャクラにも相性があって、合わさることで術の威力を増幅させたり、抑制したりすることがある。
彼は僕のチャクラと相性のよい、風の性質のチャクラを持っていた。そのため、共同任務が増え戦果を挙げる内に、相棒と呼べる存在となったのだ。
*
彼と対峙したとき、すぐには分からなかった。
その相手は、頬に二本の筋模様が入った白い面をつけていた。彼が当時着けていたのは、頬に十文字の紋様が入った面だったからだ。
クナイで応戦し、手裏剣を投げつける。隙をついて、木遁で相手を拘束したのち、首を掻き切った。鮮血が飛び散り、ごぼりと彼は血を吐いた。
そのあとの呟きに耳を疑った。
「お前、甲(きのえ)か…」
抑揚のない声を聞いて、すっと血の気が引く。
「君…まさか!」
僕はかつての相棒を手にかけてしまったのだ。
両肩を掴み、揺さぶったがもう彼の息は止まっていた。確かめようもない。彼は一度も風遁を使用しなかったから、気づかなかったのだ。
(なんてことだ……!)
「根」での任務は感情の一切を切り捨てて行う。幼い頃、そう指導された。
数えきれないほど共に任務をこなしたけれど、任務内容以外の記憶は朧気(おぼろげ)だ。訪れた地の空気の冷たさや、風の音、暗い夜道は覚えている。だが、何気ない日常会話を交わしたことや、彼と笑い合った思い出は一つもなかった。
彼は未だに、地深く大樹の根のように一人活動していたのか。
ぐったりとした彼の両肩を掴んだまま、僕は一粒涙をこぼした。
僕は恵まれている。
だから、あの頃の場所には戻りたくないと強く感じた。
空も森も、人の姿さえも灰色に見えるあの場所へは。