第30章 大樹の根のように
翌日の深夜。
僕は自宅でノートを開いていた。
日課になっていた記録帳への記述をしている。
つい先ごろ、木ノ葉隠れの里の老舗旅館の図面の写しを、僕は偶然手に入れた。
散歩がてら里巡りをし、建物を興味深げに眺めていたところ、旅館のご主人が声を掛けてきた。思わず建物の見事さを語る内に、そんなに気に入ってくれたならと、彼がその写しを譲ってくれたのだ。
数枚の図面を眺めながら、ノートへと書き写していく。先日文具店で購入した、正確な目盛りのついた定規で線を引く。
以前は、自分で作った間に合わせの木製の定規を使っていたが、随分と古びてしまったのもあり新調した。
平面図、立面図と記しながら、建物の姿を想像する。いつか役に立つときが来るかもしれないと思うと、気分は高揚した。
僕は任務で野営をする際に、班の皆の休憩場所にと小屋を建てることがある。それはチャクラに余裕があるとき限定なのだが、雨風がしのげる上、体を十分に休めることが出来ると中々好評なのだ。
そのとき旅館のような建物を建造したら、皆どんな顔をするだろうかと考えて少し笑った。
図面の写しを終えて、僕はノートを閉じた。
机の端に置いてある、ナズナさんからの手紙を手に取る。封を開けて中身を読むと、様々なことが書いてあった。
僕から預かった鳥を、彼女の母親が世話したがっていて困るとのこと。
中忍選抜試験に教え子が出ること。
次会うときの弁当の中身の相談や、僕の体の心配まで。
最後には、「私もがんばってみます」と一言。
(何を?)
締めの言葉に多少の疑問を感じつつ、手紙を丁寧に折りたたんだ。白い封筒に戻し、また机の端に置く。
こうしたナズナさんからの手紙は、半月に一、二度届いている。任務を終えて自宅に戻ると、ベランダにある雨戸の戸袋や、庇(ひさし)の裏側に封筒がねじ込まれているのを見つける。
彼女は以前「日記みたいに書きますよ」と冗談を言っていたが、実際は忙しい身を考慮してか、適度な間を置いて送ってくれる。
文面は用紙二、三枚程度にまとめてあり、寝る間際などに読むのも苦にならない長さだったりする。
ナズナさんが頭を悩ませながら、文面を考える姿が目に浮かぶ。ところどころに、彼女の優しい人柄が感じられる手紙だった。