第28章 預かりもの
「僕は家にいないことが多くてね。君に無駄足を踏ませるわけにはいかないし」
「で、ですよね」
単純に、留守だと悪いと思ってくれているようだ。妙に動揺してしまった自分が、少し恥ずかしくなる。
「それでね…」
「ナズナさん。君に、預かってほしいものがあるんだ」
*
テンゾウさんからの預かりもの。
それは、一羽の鳥だった。伝書鳩とでも言うのだろうか。白い綺麗な羽根をしている。
テンゾウさんは、連絡法について話してから数日後、その鳥を連れてやって来た。
午前中、彼の少しの空き時間を利用して、私たちは言葉を交わした。
「ナズナさん。君からの連絡用に」
「……もしかして、連絡鳥ですか?」
彼の肩に乗った鳥は、彼の顔を覗き込んだまま大人しくしている。
「忍鳥みたいに会話は出来ないけど、人の言葉はわかるんだ。僕の家を覚えてる」
「じゃあ…」
「うん。手紙をね、嘴(くちばし)にくわえたさせたり、足にくくりつけたら運んでくれるよ」
「すごい!賢いんですね」
「君の傍に置いてほしいんだ。いつでも手紙を送れるように」
テンゾウさんは、肩から腕に移った鳥を私の方へ差し出した。
「私に?…いいんですか?」
「君なら、大切にしてくれるだろうと思ってね。どうかな?」
「もちろん!大切にします」
「餌は普通のものでいいから。穀物とか豆とか…」
鳥は、白い翼を一度羽ばたかせた。私が片腕を差し出すと、そこにそっと移ってくる。移動するチクチクとした爪の感触があり、少しくすぐったい。鳥は、つぶらな瞳で私の顔を見つめている。
「うふふ」
「今日で一番嬉しそうだね」
「そりゃあ、もう」
可愛い!と顔をほころばせながら言うと、テンゾウさんは何故か困ったように笑っている。
「僕がいてもいなくても、適当な場所に届けてくれる。君が思いついたときに、気兼ねなく」
「ありがとうございます…早速書きますね」
「じゃあ、僕はこれで」
柔らかな微笑みを残して、テンゾウさんは煙と共に消えた。
鳥はその場所を小首を傾げて見てから、もう一度翼を羽ばたかせた。
「これからよろしくね」
一人呟くと、鳥は丸く黒いつぶらな瞳で、私の顔をじっと見つめた。