第27章 変化
「それは…願ってもない話ですね」
僕の心は急に揺らいだ。
口元に手を添えて考えた後、思わずそう呟いてしまっていた。ハッとして正面を見る。
すると彼が上体を起こして、ふっと笑った。
「図星か?彼女ってのは、当てずっぽうだったんだがな」
「…まだ、恋人ではないですけどね」
「へぇ。でもまあ、気になる女がいるって訳だ」
気恥ずかしさから視線を逸らして、後頭部に手をやる。自然と答える声は小さくなった。
「…まあ、そんなところです」
ここまで知られてしまえば、話さない訳にもいかない。
そもそも彼は既婚者で、どのような経緯で相手と出会ったのか気になってはいた。
極秘任務を扱う部隊だ。相手もまた、口が堅かったり冷静な人物である方が望ましいだろう。
話に興味が湧いたのか、彼はまあ座れよと備え付けの長椅子を指さした。長くなりそうだと予感しつつ、僕と彼は並んで腰を下ろした。
*
「俺の相手は、元暗部だ。まあ、腐れ縁ってやつだな。任務に関して理解もあるのが、一番ありがたい。後、そうだな…結婚してるやつだと、幼馴染と、ってのもよく聞くぜ」
「なるほど…。いずれにしても、近い立場の相手が多いわけですね」
彼の馴れ初めまで聞く気はないが、どのような立場の女性なのか分かったのはありがたかった。
氏素性を隠したまま、関係を深めるというのは難しい。それが出来る人間もいるが、僕はそれほど自分が器用だとは思っていない。
「彼女は正規部隊の人なんです。僕の所属を話すべきか迷っていて…」
この関係における、一番の核心について僕は触れてみた。それを話すことが出来れば、どれだけ気が楽になるだろうか。
彼は僕の言葉を聞いて、視線を天井に向けた。
しばらく考え込んでいる。
彼はあまり迷わず答えを出す人で、無言の時間が不安を煽(あお)る。やはり難しいことなのだろうか。
「そうだなぁ。それは、相手の性格によると思うぜ。暗部と言っても、相手の印象は色々だろ?引く人間もいれば、所属についてさほど気にしないやつもいる。まあ、俺たちは表には出ない分、何やってんのかわかってねぇやつが大半だろうがな」
「僕もそう思います」