第27章 変化
数日で終わった任務の後のことだった。
僕が報告書を提出して執務室を出たとき、丑面の男に呼び止められた。
「なぁ、テンゾウ。最近どうだ?」
どう、とはどういうことだろう。
僕は彼の言葉の意味を図りかねて、問い返した。
「どうって?任務は無事完了しましたし、何かありましたか?」
通路で立ち止まった彼は、何故か場所を変えようと促してきた。深刻な話ではないようで、その声は明るい。
*
僕たちは執務室からは離れた場所にある、暗部専用の待機所へと移った。室内に入り扉を閉めて、彼と向き合う。待機所には誰もいないようだった。
「それで、一体何なんです?」
僕が彼に再度尋ねると、彼は壁に背を預けて腕を組んだ。
「いや、何。お前が最近ちょっと違うなぁと思ったからだよ」
「違う?僕のことですか?」
「そうそう。浮かれてるというか、ご機嫌というか。いいことでもあったんじゃないかって、俺は思ってんだけどなあ。…そう、例えば彼女が出来たとか」
仮面の下では、恐らく意地の悪い笑いを浮かべているのだろうと想像しながら、僕は極力感情を抑えて答えた。
「いや、別に何もありませんよ。いつも通りです」
「別に隠さなくてもいいだろ。そこそこ任務で関わることが多いぜ、俺たちは。いいことは共有した方がいいと思ってんだけど」
そこまで言って、彼は僕に近づいてきた。上体を腰から折り曲げて、更に顔を間近に寄せて囁く。
「時と場合によっては、休暇を代わることだって出来るぜ。まあ、誰かと会う予定があるならってことだけどな」
驚いたことに、彼は非常に魅力的な提案を僕にしてきた。
任務によっては代わりの利かないものもあるが、年上の彼ならば任せられることも多い。三代目の了承を得てという条件は付くものの、可能性は十分にある。
ナズナさんと休暇が重なれば、呼び出しがない限り彼女と長い時間が過ごせる。ひと月に一回程度、隙間時間に言葉を交わすという今の状況から大きく前進する。